賢者の創作石

Philosopher’s Art Stone

帰還

 

どこまで来ただろう。

果てしない旅をしているらしい。

就寝カプセルを出ると、闇の中に幾何学模様の色光が

まるで灯台のように窓の外を照らしていた。

しばらく思い出せずにいたが、これまでのいきさつにやっと気がついた。

ここまで来ればもうすぐということか。

 

しかしアースクロックを見るとまだ地球を出てから5分足らず。

はるか昔の光速の時代が偲ばれる。

宇宙船も改良に改良を重ね、よくぞここまできたものだ。

しかも一人乗りのディンギー型とは。

自分では創り方など見当もつかないけれどこうして恩恵は受けられる。

ただ感謝して受け容れよう。

 

この空間の中の距離が遠くへ移動したのか、

空間が幾重にも重なる形で遠くに来たのかも曖昧だ。

この辺のところは科学の授業にも出てきていたんだろう。

サボってばかりいたので今さら少し後悔ってとこか。

まあ幾重にも重なる形の方がそれらしいけどな。

 

地球を離れてから時間の感覚が全くない。

身体の感覚もほぼない。

感覚はなくなってしまった。

 

『ここは感覚のない場所。

 表現のない世界。

 そのかわり何でも知っている。』

 

何だ今の言葉は?

おいおい、そんなこと口に出したら

俺は仲間に傲慢の烙印を押されて誰も周りにいなくなるぞ。

だが感覚がないのになんで知っているんだ?

知覚も感覚のうちではないのか?

 

『酸素』

ああ、そうだった!........地球から持って来た酸素を俺の身体に補給しなければ

俺の身体はあとでどうなっているかわからない。

欠乏の感覚もないので忘れてしまいそうだ。

ここでは何でも知っているらしいので

ただ知っていることを実行するまでだ。と言っても........

俺は就寝カプセルの中の俺の身体にやっとのことで濃縮酸素リキッドを注入した。

 

身体の感覚が鈍いので身体が重い。

ほんとうなら感覚はなくなっているはずだが

地球に戻れないことがないように地球と見えないコードで繋がれている。

これが命綱だ。切れることのないように大事にしなければ。

 

ここには何もないようだが明るいのだから光だけはあるのだな。

しかしここの光はとにかく気持ちがいい。

地球での生活を忘れてしまいそうだ。

地球での生活は楽しいといえば楽しいが苦しいといえば苦しい。

いろいろなことが思い出された。

 *

 *

 *

そうやってどのくらい経ったか

もうここでこのまま.......と思った時

地球に繋がれているコードが仲間に引っ張られ、ハッとした。

自分ひとりではこのまま帰ることを忘れていたかもしれない。

以前この命綱が切れてとうとう帰還しなかった仲間の気持ちを経験したようだ。

あいつは今頃どこでどうしているだろう。

どこの宇宙を彷徨っているのか。

 

 

帰途、『バタフライエフェクト』というタイトルの映画がスクリーンに映し出された。

宇宙船はすべて自動操縦なので映画は選べないようになっていた。

49倍速なのでストーリーはわからなかったが画像の印象は残っている。

 

 

あそこへ行って覚えたことは必ず地球に

持って帰らなければならないという決まりがある。

忘れてはいけない。

決して多くはないけれどしっかりメモしておこう。

その為にこうして危険を冒してきたのだから。

就寝カプセルの中の俺の身体に入る前に。

  *

  *

  *

  *

  *

どうやら生還を果たしたらしい。

 

ここは表現のある世界。

人と関わる場所。

 

もうすべてを知らなくても生きられるのだ。

ここには他の人がいる。

他の人は自分でもあるのだから

遠慮なくコラボレーションすればいいだけの話だ。

 

ここにいる間はここの掟に従おう。

そう強く決心して宇宙船を降り、大地の一歩を踏みしめた。

 

さて、コラボレーションの世界でも満喫するとするか。

 

 

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父へ…レクイエムをあなたに…SoundCloud


SoundCloudに 父への『Requiem』1曲を追加しました。

昨日も4曲アップしたので全部で12曲になりました。

 

soundcloud.com

 

父が亡くなった時は私は日本にはいなかった。

お葬式には行かなかった。

関係が悪いとかそういうことではなくて

私は父に似すぎていて

そんなことは父にとってどうでもいいことであることがわかっていたからだった。

 

 

私は父に性格がそっくりだとよく言われていた。

たぶん父とは似ていたので課題がなかったらしく10代から遠く離れた。

母は父と別れても私という父の亡霊との課題があった。

 

亡くなった時、悲しくて泣くということはなく

心にぽっかりとは違ったぼんやり穴があいている気がした。

でもたぶんそれは幻。

その穴の中には父がちゃんと入っているから。

 

 

 

 

SoundCloudに4曲追加してみたら…….

 

インストゥルメンタル曲のスケッチをSoundCloudに4曲アップしました。

 

soundcloud.com 


いざアップしてみると

今回の4曲はどれも曲のスケッチとしか言えないもので

仕上げていない曲がたくさんあった。

 

それに刺激されて、これらを仕上げるのも課題だし、

また新しい曲をアップするのも課題な気がしてきた。

 

『Innocent』と『Rainy Sunday』は録音はしてもらったからある程度の形になっていて

まだ形になっている曲は、歌入りのはいろいろあるけど、

歌は賞味期限が切れてる感じがしてどうしてもアップできない。

 

 

スケッチを仕上げること。

ここで壁になっているのは音楽ではなくてテクノロジー。

いつもそうだった。

私はいつも原始人(ストーンエイジ)と呼ばれて笑われている。

自分も受け容れて笑っているけど、笑っている場合じゃなくて

やらなくちゃだめなのかも。

ハードルは高い。私には空まであるように見える。