賢者の創作石

Philosopher’s Art Stone

生と死のハイ

 

 

再びタマニチェンコさんのこちらの記事↑がトリガーになっている話。

 


記憶を書くのは私には難しく感じている。

辛かった体験だからという理由ではなく

記憶はまるで樹のようになっていて

それを一本の線に直すという作業が私には難しい。

書く前は、難しすぎる、と諦めてしまいたくなる。

書き出したら、何とかひとつひとつ一歩一歩進める。

 

 

人の記憶はつまり経験で、アウトプットすれば

集合経験値になる。 

誰が読むのかというのは自分の領域ではないので

旅立たせるだけで十分だ。 

 

特に「危機」に関することは重要だけど

無理に思い出さなくても 必ずトリガーが現れる。

何らかの形で。 

今回は「セカイノカタチ」で。

 


ーーーーーーー

 


母の余命宣告は妹から聞いた。


毎日病院へ通う電車の窓からぼんやり眺めた

空と雲がとてつもなく美しかった。

 

空と雲があんなに限りなく美しく見えたのはきっと

死を意識すると、生が一段と彩りを増すからだと思う。

 

 

初めのショックからしばらくすると不思議なことが起きた。
(外側からはわからない自分の内だけのことで)

 

大きな私が小さな私を含んで存在しているとでもいうような状態になった。

私はすごく大きくなっていた。(と感じた)

それによって辛い体験がスムーズに受け入れられた。

こんな状況でも妹と一緒に話をして、冗談も言い、よく笑っていた。

繕っていたのではなく、心から。

 


妹は私が一時自宅へ帰った時(大阪から東京へ帰った)

一人になると落ち込むけど、私といる間は明るい気持ちになると電話で言っていた。

この状態が脳内物質が出ていた状態だと思う。

『自分の実体がーーー大きく膨らんだ』(byタマニチェンコさん)

というのも言っていることがわかる気がする。(気がするだけかもしれないけど)

 

 

ここまでがタイトルの内容を苦労してまとめたつもりだったんだけど、

まだ記憶が湧き出てくるので、続きを書くことにする。

自分への癒しになっているのかもしれないし。

 


ーーーーーーー

 


病院は救急治療室通いだったから毎日急患が運ばれてくる。   

待合室。 電話。 誰かのお兄さんの声。 悲痛な叫び。

「弟が死んでもうてん!」

受付。 誰かのお母さんの声。

「死んだのに それでも手術代払うんですか?」

我が母がまだ生きている間も 待合室で人の悲しみを吸収する日が続いた。

この日々の見知らぬ人々の大きな悲しみも強く心に残っている。

 

 

 

母の最期が近づいてきた時、母は薬でほとんど寝ているか

起きている時はおかしなことを(話はもうできなかったので)乱れた字で書き始めた。

空中に赤い手が見えて怯えたり、あれ?私死んでたんじゃなかったの?とか

この世の中は汚い、全然知らなかったと

(母は品のいいお嬢さんっぽいので)私の知っている母らしくないことを

読みにくい字で書いた。

 

 

これまで母の価値観と私の価値観はかなり違っていて悲しませることが多く、

母は生きている間ごく普通に見えても、私から見ればずっと精神が不安定だった。

祖母は母のことを「幸が薄い」という言葉で表現していた。

 

 

今思えば私は母のことを、自分を犠牲にして子供だけにすべてを捧げてかわいそうと

思っていたので、価値観が衝突する時はなるべく主張をひっこめて

なだめる空しい努力をしていた。

行動では自分のやりたいことを止めることはできず、対話をする時だけの話。

そういう経緯があって、私は奇妙にも

この最期の期間のおかしくなった母が今まででいちばん近くに感じた。

 

 


私は母が旅立っても涙はでなかった。

病室の外で若い看護婦さんが一人だけ泣いていたのが印象的だった。

きっと心の優しい人なのだろう。

 

 

涙がでなかったのは我慢していたわけではなく、

この事実よりもむしろ、母に私よりも近かった妹のことの方が

気にかかっていたからだと思う。

 

 

火葬場へ向かう前の最期のお別れの時、母の花に囲まれた安らかな顔を見ながら

音楽が流れた時、堰を切ったように初めて泣いた。 

 

よく知っているクラシック曲。

この時、涙のトリガーになった音楽というものの存在を大きく感じた。

妹のことを心配してしまう自分を解放した音楽という存在を。

 

そうか。私は音楽で表現を促されるのか。 

 

泣きながらそう思った。

 

 

 ーーーーー

 

 

お母さん、 もしも再会が叶うなら 

 

あなたが  価値観の全然違う私に  

 

苦しみながら 全力投球で注いでくれた愛を

 

今度は私が親になって  あなたに全力投球で

 

注ぎ倒して リベンジしたい

 

 

 

f:id:ArtStone:20170609160659p:plain