賢者の創作石

Philosopher’s Art Stone

夢方見聞録


その夜はくたくたに疲れていた。

睡魔が襲ってくるがなんとか眠らないでおこう。

いつもはここで睡魔が襲うと、早く眠りにつかないと

あれに追いつかれてしまうと焦る。

だが今回は眠らない。

望んだことだから。

 


ついに、ある空気のざわつきから始まるあの予兆が始まった。

それはいつも畏れの感覚と共に始まるが今回に限って畏れはなかった。

 

身体が動かなくなった。

予定通りだ。

 

 

目の前の存在。

その存在は確かに目の前にいる。

やったぞ!


だが、なぜ確信できるんだろう。

見えないのに。聞こえないのに。触れてもいないのに。

 

今迄の経験ではある時は見え、ある時は聞こえたのに

これは初めてだ。

 

見えない聞こえないのは少し残念だけど

この何も知覚できないのになぜか確信出来る感覚を憶えておこう。

 


確か視覚が優先する場合は見えると聞いていた。

聴覚が優先する場合は聞こえると聞いていた。

なのにこの現象は一体どういうことなのだろう。

 


見たい! 姿が見たい!

果てしなく欲求が膨らむ。

 


すると霧が晴れるようにその存在の姿が目の前に現れた。

見える!

と共に喜びがこみ上げてきた。

 


望んだ途端 現象が起こるということなのか。

聞いていたことと同じだ。

あれはやっぱり本当だったのか。

 

 

ひとときの至福の時間が過ぎ去り

その存在は歩かずにまるでズームアウトするように

小さくなって遠ざかっていった。

 

そうやって移動するのか。

なんとなくイメージ通りだ。

 

そうだ。手を振ってみよう。

たぶん私の身体は手を振れないだろうけど。

 

手を振ってみた。

その存在も穏やかな笑顔でこちらを見ている。

 


さようなら。

 

さようなら。

 

さようなら。

 

 

存在の姿が消えた時、身体が動き

夢から覚めた。

 

 

いや きっと今が夢の中なのだ。

あの現実感には到底適わないのだから。

 


どちらにしろ私は癒されている。

 

それだけが事実だ。

 

 

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